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“自然派ハンドクリーム”にも落とし穴!? 「手湿疹」の原因とは【アトピー発症機序理論6】

 皮膚科専門医である山本綾子先生の

 

『アトピー発生機序理論』

 

の第6回目をお伝えいたします。

 

 

山本先生は、アトピー性皮膚炎の発生と身体の使い方に深く結びつきがあると考えられており、その理論をもとに患者さんの治療にあたっておられます。この考え方は、アトピー性皮膚炎で辛い思いをしているたくさんの患者さんに知っていただきたいです。また、アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患に対するリハビリテーションを学んでいく理学療法士や作業療法士にとって、知らなければいけない重要な考え方だと強く感じます。

 

山本ファミリア皮膚科 駒沢公園

皮膚科専門医 山本綾子先生

 

 

第6回目は、

 

『“自然派ハンドクリーム”にも落とし穴!?』

 

 「手湿疹」の原因とは?

 

 

 アトピー性皮膚炎と診断されたことがなく、身体のほかの部位に湿疹はない。なのに手だけは湿疹だけがどうしても治らず、いつも指先がパックリ割れて痛いという人が、時々います。老若男女問わず、特に炊事などをしていなくても、です。

 

 今回はそんな手湿疹の謎に迫ります。

 

 

手湿疹で受診する人の特徴とは

 

 

 皮膚科を「手が荒れるので、薬をください」と受診する患者さんで多いのは、子育て中のお母さんや炊事の多い女性と、ある職業に就く人たちです。

 

 まず、美容師さんや飲食店勤務のみなさん。美容師さんはシャンプーをすることが多くパーマ剤、カラー剤などを触ることが原因でしょうし、飲食店勤務の場合、手洗いの回数の多さが原因と考えられます。ある意味、職業病ともいえるでしょう。

 

 こうした職業については予測も納得もできますが、意外にもエステティシャンも多いんです。エステと聞くと皮膚に“優しいもの(クリームなど)”を使っていると思ってしまいますが、“優しい”とうたわれているものが、必ずしも万人の皮膚に刺激がないとは言えないようです。

 

 また、食器洗いなどほとんどしないという男性ビジネスパーソンが受診することも増えてきました。

 

 その背景に透けて見えるのは“手荒れはかぶれ(外的要因)によるものだけではない”ということでしょう。ではなぜ手が荒れるのか? アトピー発症機序理論から考えてみましょう。

 

 

手湿疹の治療にも作戦が必要

 

 手湿疹で皮膚科を受診すると、ステロイドの軟膏と保湿剤を処方されるのが一般的です。もちろん、私の処方も一般的皮膚科とほとんど変わりません。

 

 私自身はアトピー性皮膚炎ではありませんが、子どものころは手湿疹がひどく、ひび割れから血が出て、教科書のあちこちに血がついたりしていました。率先して食器洗いをしていたわけでもなく、手があれる原因は思い当たらなかったのですが……。

 

 また、皮膚科医になると手を洗う回数が増え、手荒れを繰り返すようになりました(もちろん現在は治っています)。当時、ステロイドを使って治療していましたが、手湿疹にはステロイドが効きにくいということは自分の経験上、よく知っていましたし、治りにくいことを実感。なぜなのか?

 

 ここで考えるべきは、

「効きにくいステロイドをいかに効きやすくさせるか?」

 なのです。

 

 

ステロイドの強さのランクと使い分け

 

 ステロイドの外用剤(塗り薬)には、強さのランクがあります。

 

 弱い順にweak(弱い)、medium(中程度)、strong(強力)、very strong(かなり強力)、strongest(最も強力)となります。なお子どもの場合、大人よりも弱いステロイドを使うため、ここでは大人のステロイドの強さのランクの解説をします。

 

 よく病院で処方される「リンデロンVG軟膏」はstrongレベルなのですが、ステロイドの使い方をしっかり訓練した皮膚科医としては、「リンデロンVGが中間ランク」というイメージです。

 

 基本的に顔は皮膚が薄いため、mediumランクを使います。身体は顔より皮膚が厚いため、顔より強めのものを選択し、strong以上のものを使います。(これらは基本的な使い方ですので、症状が強い場合は、顔であっても、短期で強めのものを使うこともあります)。

 

 

“カサカサで平ら”か“ザラザラで盛り上がっている”か

 

 そして、もう一つ、大切な使いわけがあります。

 

 それは、湿疹が「カサカサで平ら」なものは弱めのステロイド、「ザラザラして盛り上がっている」ものは強めのステロイドということです。必ず手で触って、皮膚面からの盛り上がり具合で、ステロイドの強さを決めます。赤いから強いもの、という選び方は決してしません。

 

 極端な話、「目をつぶって触ってざらざらするか?」で決めると言っても過言ではありません。

 

 つまり、顔と身体と大雑把に分けたあと、さらに顔の中でも、身体の中でも「ザラザラのつよい場所」と「ただカサカサしている場所」に分けて、塗り分けるということです。

 

 なかなかステロイドが効かないという訴えの患者さんに前医でのステロイドの使い方を聞くと、「顔と身体の薬は別だったけれど、顔用は1種類、身体用も1種類だけ」ということが多いです。身体の範囲は広く、症状の強いところ、弱いところがあるはずです。それを1種類で済ませようというのは、無理な話です。

 

 

手湿疹の治療でステロイドを使うときは、手を洗うたびに塗る

 

 さて、手に使うステロイドのランクなのですが、手や足は顔や体幹の皮膚より分厚いため、もともとステロイドの効きが非常に悪く、very strongランクのステロイドを使うことが多いです。

 

 そして、手は手を洗ったり、何かを触ったりと軟膏がとれてしまうため、身体のほかの部位は基本的に1日2回外用の指示であっても、手だけは、頻繁に外用するのがポイントです。「手を洗うたびに塗る」と思っているといいですね。どんなにいい薬でも、皮膚に残っていなければ、効果が出るわけがありません!

 

 

なぜ手なのか?という疑問から解決の糸口が見えてくる!

 

 ステロイドの使い方が分かったところで、今度は繰り返してしまう手湿疹を戦略的に治すときのポイントです。

 

 まず考えるべきは「なぜ、手なのか?」「手は、身体にとって、どういう特徴がある部位なのか?」ということ。

 

 すぐに思い浮かぶのは、手の身体における特徴は、

 

 [1]いろいろな物に触れる部位

 

 [2]心臓から最も遠い部位

 

 でしょう。この特徴ごとに対策を立てていくわけです。

 

 

敏感肌用で手が荒れる!?

 

 皮膚科を受診する以前に手湿疹でまず試すのが、「ハンドクリームなどで保湿する」ことと、「食器洗いなど洗剤を使う際に、必ず手袋を使う」ことではないでしょうか?

 

 

 もちろんこれらは非常に大切ですし、やっていないという方は、まずこの基本中の基本から始めてください。

 

 次に考えるべきこと。それが、「手はどんなものに触れているか?」です。

 

 みなさん、手が荒れると手の油分を奪いそうな食器洗い用の洗剤などは、すぐに使うのをやめようと思いつくようですが、「手を洗うハンドソープ・石鹸」や「手につけるハンドクリーム」についてはなかなか思い至らないよう。しかも石鹸やハンドクリームなんて、「自分から、わざわざ手につけるもの」ですよね。

 

 ところが実は、「自分は肌が弱く手が荒れやすいから」と厳選している「敏感肌用」「赤ちゃん用」の製品に、かぶれているということが結構あるんです。

 

 

除菌表示に注意! 無添加に変えると治る?

 

 石鹸やハンドソープなら「除菌」とうたわれているものはかぶれの原因になりやすい。また、「お肌に優しい植物性○○配合」というものも、わざわざ入れている、その「植物性のもの」にかぶれる可能性もあります。

 

 例えば昔から民間療法で使われてきたアロエにかぶれることがあるのは、有名な話です。また、「オーガニック」のものが肌に優しそうな印象はありますが、もしかしたら、その植物由来の「○○」がかぶれの原因かもしれません。

 

 まずは石鹸を無添加のものに変えてみましょう。ただし「無添加」と表示されていても、「防腐剤が無添加」なだけのこともありますから、自分の目で必ず成分表示を確認してくださいね

 

 また、使っているハンドクリームも、「本当にかぶれの可能性がないか?」を再確認する必要があります(長期間使っていても、途中からかぶれるようになることもあります)。

 

 

高級ボディークリームや消毒用アルコールでかぶれる……!?

 

 実際、私も、海外旅行のおみやげとしていただいた、いい香りの高級ボディークリームにかぶれたことがあります。1日目に使ってみて、ほんのわずかにかゆみがありました。でも、気のせいかな、という程度。赤みも湿疹もまったくなし。2日目。やはりかゆい。でも、ごくわずかなかゆみ。ずっとかゆいわけでもなく、ちょっとむずっとする程度。もちろん、湿疹はゼロ。3日目。またしても、ごくわずかなかゆみ。さすがに3日連続でかゆくなると、皮膚科医としては、「あれ? 変だぞ」と思ったわけです。赤みも何もないのにかゆいなんてと。

 

 とても気に入っていましたが、そのボディークリームの使用をやめると、かゆみはゼロになりました。そう、ごく初期のかぶれの場合は、かゆみだけということもあるのです。

 

 また、かぶれという点で、ちょっと忘れがちなのが、「消毒用アルコール」です。消毒のために手につけるものや、台所やテーブルを拭く際に吹き付ける消毒用アルコール。手に直接すり込むアルコール消毒ならば、すぐに思いつきますが、テーブルを拭く際は、自分の手に吹き付けているわけではないので見落としがちです。しかし、こんな間接的なものでも手がカサついてきますから、注意が必要です。

Photo:Stuart Miles

 

 

心臓から手に血液が届けられるまでをイメージする

 

 ここまで、手はいろいろな物に触れるため、何気なく使っているさまざまな物によるかぶれの可能性(外的要因)を忘れないで、というお話をしてきました。

 

 しかし肝心なのは、「繰り返さないための治療」です。そこでアトピー発症機序理論の基本の考え方である「心臓から湿疹部位まで血液が届けられる間に、邪魔をするものは何か?」に従って見ていきます。

 

 以前、「血管はホースで、血管の中の血液がホースの中の水」とイメージすると分かりやすいと解説しました(「その歩き方で大丈夫? 脛・踵が荒れる原因とは【アトピー発症機序理論2】」)。

 

 手湿疹の場合も、心臓から手に血液が届けられるまでの間の血管をイメージすると、心臓から大動脈が出て、脇の下を通り、肘の内側を通り、手に届きます。手は、心臓から出て最終目的地となりますから、「血流を邪魔するさまざまな関門」があります。

出典:ウィキメディア・コモンズ

 

 

 まず、最初の関門となるのが、脇です。手に触れるものに気をつけても手湿疹の治りが悪い患者さんをよく見ると、ある特徴があります。

 

 まず、腕や手の力を抜いて肩から腕をだらんと下ろすと、手のひらが後ろを向いていることがあります。また、横から見ると肩が前に出ている状態になります。

 肩の位置が正常な人は同じ姿勢で手のひらは体の側面を向き、そこから手のひらを前に向けるという動作が簡単にできるのですが、先述のような肩が前に出ている人は、肩周辺の筋肉が正常の位置からずれるために硬く緊張し、手のひらを前に向けることが難しい(痛い)と言います。

 

 「肩が前に出ている」と、脇の隙間はどうなるのかというと……

出典:ウィキメディア・コモンズ

 

 

 脇の隙間が潰され、脇を通る血管が潰されるのです。これは肩が前に出ている人の場合、肩周辺の筋肉が非常に硬くなっているため、ポンプ機能を担うべき筋肉が逆に血流を阻害してしまいます(「その歩き方で大丈夫? 脛・踵が荒れる原因とは【アトピー発症機序理論2】」参照)。

 

 手湿疹の治りが悪い人は「手が冷える」と訴えることが多いのですが、肩が前に出て血管を潰してしまうためと考えると、「手が冷える」ことと「手が荒れる」ことが同時に起こりやすいのも納得できるのではないでしょうか。

 

 

手を使う作業で前腕の骨がねじれるということ

 

 「心臓から湿疹部位まで血液が届けられる間に、邪魔をするものは何か?」。この湿疹部位が手である場合、最初の関門である脇を通りすぎたあとは、肘、手首と続いていきます。

 ここで日常生活で手をどのように使っているのか考えてみます。

 

 ビジネスパーソンの多くは、PCを使わない日はないくらいでしょう。あるいはパソコンを使わなくても、「手を使う」という動作では、手の甲が見える状態ですよね?

 

 次の図を見てください。先述の、腕をだらんとしたときとはまた違ってくるのですが、人間の骨の構造上は、手のひらは正面を向くのが自然です(手の甲は背面)。しかし「キーボードを打つ」とか「字を書く」などの手を使う作業では、手の甲が見える状態であり、前腕の骨がねじれてしまうことになります(図の向かって左側では前腕の骨がねじれています)。

 

出典:ウィキメディア・コモンズ

出典:ウィキメディア・コモンズ

 

 

 骨がねじれるのですから、付着する筋肉はもちろん、一緒にねじれます。

 

 手湿疹の治りにくい人は、肩の問題だけでなく、手首が非常に硬いことが多いのです。筋肉がもとあるべき位置からいつもずれているのだと考えれば、筋肉が硬くなってしまうのも当然と言えます。

 

 

身体のあるべき位置をいつも意識する

 

 アトピーや繰り返す湿疹の「なぜその部位に生じるのか?」という法則を説明するのが、私の提唱するアトピー発症機序理論ですが、理論のベースにあるのは「身体はあるべき位置からずれると負担がかかる」という考え方です。猫背や反り腰などの間違った姿勢で生活していると、背骨の本来のあるべき位置であるS字カーブからずれ、筋肉に負担がかかります。その負担がかかった部位に湿疹が生じるわけです(「腹筋を鍛えるとアトピーが治る!? 【アトピー発症機序理論3】」参照)。

 

 今回のテーマである手でも、肩や腕が「本来あるべき位置」からずれると、筋肉に負担がかかり、血流を悪くしてしまうことを解説しました。

 

 現代人は、動物としての人間が本来あるべき姿、位置からどんどんずれるような生活をしていますが、体に悪いからといって、パソコンやスマートフォンなどの便利なものがない時代に戻ることはできません。だからこそ「本来あるべき姿」を日々の生活の中で思い出し、身体の使い方に気を配り、ケアすべきなのですよね。

 

 

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以下、アトピー発生機序理論の他のリンクを掲載しておきます。

 

【アトピー発生機序理論】

 

(1)冬のカサカサ肌・かゆみ肌は悪い姿勢が原因だった!?

(2)その歩き方で大丈夫? 脛・踵が荒れる原因とは

(3)腹筋を鍛えるとアトピーが治る!?

(4)フケじゃなかった!脱毛にもつながる脂漏性皮膚炎のナゾ

(5)スマホの普及で顔の湿疹が増えた?

(6)“自然派ハンドクリーム”にも落とし穴!? 「手湿疹」の原因とは

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【著者】

山本綾子(やまもと あやこ)

 

山本ファミリア皮膚科 駒沢公園 皮膚科専門医 

 

 金沢大学医学部卒業後、金沢大学皮膚科学教室入局。多くの重症アトピー性皮膚炎の治療経験から、湿疹の出る部位と姿勢・歩き方の関係に気づき、「アトピー発症機序理論」と「運動療法」を導き出す。現在、「治らない病気」とされてきたアトピー性皮膚炎を「根治できる病気」として、全国から集まる患者を、改善・根治に導き、アトピー撲滅をライフワークとしている。 

病院外でも、アトピー発症機序理論の勉強会・運動療法のワークショップを実施。これまでに東京をはじめ日本全国で開催。 

オフィシャルブログは「皮膚科専門医 山本 綾子 のアトピー撲滅プロジェクト


 

【日本アレルギーリハビリテーション協会】

 

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